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サンダンス国際映画祭で観客賞受賞の注目作!

インディペンデント映画やドキュメンタリー映画の国際的な登竜門として知られ、世界中から毎年8000本を超える映画が集まるサンダンス国際映画祭において、本年、ドキュメンタリー部門で観客賞を受賞したのがこの小さな映画「パーソナル・ソング」(原題:Alive Inside)だ。

アメリカでは認知症の人々が年々増加しており現在500万人以上もいると言われている。病院や介護など関連した職業の人口は1000万人にも上る。日本でも高齢者の4人に1人、約400万人が認知症を抱えているとされ、大きな社会問題になっている。サンダンスでは、本映画鑑賞後にはSNSサイトで絶賛の声や驚きの声が書き込まれ、映画祭の審査員、観客から高い支持を得て、監督本人も予期せず驚いたという観客賞を受賞した。その後もカナダやイタリアの国際映画祭などで監督賞や観客賞を受賞し続けている。アメリカでの劇場公開も8月から限定的にスタートし堅調な動員となった。インターネットの映画サイトRotten Tomatoesでも観客の満足度で94%と高い数字を記録。

iPodで“思い入れのある曲”を聞き、記憶を呼び戻す画期的な試み!

本作の中心となるのは、ソーシャル・ワーカーのダン・コーエン。もともとIT業界にいた彼は、iPodを使って、認知症の人に思い入れのある曲を聞かせれば、曲の記憶とともに当時の自分や家族のことなど何かを思い出すのではないか、ということを思いつく。さっそく、施設に行って認知症を患っている黒人男性ヘンリー(94)に音楽を聞かせてみた。自分の娘の名前すら忘れてしまっていた彼だったが、ゴスペルの名曲「ゴーイン・アップ・ヨンダー」を聴いた途端、カメラの前で劇的な反応を見せる。若いころ、自転車が好きだ
ったこと、仕事でお金をもらった時の喜びなど次々に鮮明な記憶を取り戻した。そこからダンと監督マイケル・ロサト=ベネットの3年に渡る取材が始まった。「聖者の行進」ルイ・アーム・ストロング、「ウィル・ユー・ラブ・ミートゥモロー」シュレルズ、「スタンド・バイ・ミー」ベン・E・キング、「ヘイ・ジュード」「抱きしめたい」ザ・ビートルズなど名曲が次々と人々を目覚めさせていく……。ミュージック&メモリーと名付けられたダン・コーエンの音楽療法は当初3か所でスタートした。本作撮影途中にショートムービーをインターネットでアップしたところ1週間で700万回も再生され、このプロジェクトが全米で注目されることとなる。また映画の公開も後押しし、今や7か国650か所以上で行われている。

小さなプロジェクトが次第に大きな流れに!

監督はこれが初監督となるマイケル・ロサト=ベネット。ナショナル・ジオグラフィックなどの撮影の仕事をしていた彼が、3年の月日と制作もかねて取り組んだ渾身のプロジェクトで世界中から注目を浴びている。

著名な神経学者であり、映画『レナードの朝』の原作者でもある、現コロンビア大学医科大学院教授のオリバー・サックス医師が音楽が脳に与える影響について解説。大ヒット曲「Don’t Worry, Be Happy」をはじめグラミー賞を10回も受賞しているジャズ歌手のボビー・マクファーリンがステージ上のパフォーマンスで観客からメロディーを引き出す瞬間には音楽の力を実感するとともに大きな感動を覚えるだろう。

音楽こそ、認知症に一番効果的な特効薬!

認知症とは病名ではなく、記憶や判断する力が障害を受け、社会生活に支障をきたす状態のこと。アルツハイマー病は、脳の委縮が進んで起こる病気と定義されている。さまざまな取り組みは行われているものの現在のところ、認知症やアルツハイマーには完全な治療法がないと言われている。

しかし、本作は薬や病院の治療ではない、音楽を聞かせて内なる力を呼び起こすという方向で大きな成果を記録したという点でも、認知症・アルツハイマー患者やその家族に大きな希望をもたらす作品となるに違いない。ここ数年、音楽が認知症には効果的であるという報告がなされてきたが、そんな報告を裏付けるかのように、カメラの前で、驚くほどに覚醒する人々を見ることができる。

映画の世界でも『毎日がアルツハイマー』『ペコロスの母に会いに行く』などアルツハイマーに関するユーモアあふれる作品が次々と公開されている。そんななか本作も、時に笑いを交えながら、認知症の人々が、それぞれの“パーソナル・ソング”によって自分を取り戻す幸せな瞬間に溢れており、優しい気持ちになれる共感型のドキュメンタリーといえる。映画を観終わったあと、今一度問いかけてみたい。自分にとってのパーソナル・ソングは何だろう?

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